長崎新聞社
「魔が差した」と言うしかない。3月28日午後。長崎県雲仙市の会社員、田中太郎(50代)=仮名=は仕事の休憩時間にパソコンでアダルトサイトを閲覧していた。すると画面に「無料」の文字が。興味をそそられてクリックした。
「お客様ID番号」として赤色の9桁の番号が表示された。通常価格45万円、キャンペーン特別価格35万円と書かれている。「しまった」。田中は焦った。どういうわけか有料登録されてしまったようだった。
「誤作動によるキャンセルをご希望の場合は【12時間以内】にお電話にてキャンセル手続きを行ってください」との注意書きに目が留まった。契約を解除したい一心で、田中はサイトに記載されていた携帯番号に電話した。
ヒライと名乗る男が電話に出た。営業口調の丁寧な対応。「間違って入ったんで取り消せますか?」。田中が求めると、ヒライは答えた。「サイトにはもう登録されているので取り消せません」。支払うにしても安くしてほしいと懇願すると「通常45万円ですが、今日の夕方4時半までに支払いできるなら35万円で良いです」。田中は渋々、提案を受け入れた。
ヒライが指示した支払い方法は狡猾(こうかつ)だ。(1)コンビニでグーグルプレイカードを購入する(2)店員に怪しまれないよう2軒で分けて購入(3)店員から声をかけられたら「高い買い物をしたので」と答える-。田中は指示通り、1軒目で5万円分のカードを3枚、2軒目で5万円を4枚の計35万円分購入し、ヒライにカード番号を伝えた。
「これからもサイトを利用しますか? 利用されるなら見続けても良いですけど」。田中は「利用しない」と断り、登録解除を求めた。「分かりました。解除しました。あなたに連絡することは今後ありません」とヒライ。「これで関係を切ることができた」。田中は胸をなで下ろした。
ところが、それで終わりではなかった。4月上旬、知らない携帯番号から着信があり、「あなたが3月に登録したサイトに2回ぐらいアクセスがあった」と男が電話口でまくしたてた。ヒライとは明らかに別人。「おかしい」。田中の頭の中で赤信号が点滅し「また連絡する」と言って電話を切った。すぐに雲仙署に相談。詐欺と分かった。
5月23日、また別の男から電話があった。「3月末の件で電話した」という。田中は警察の指示に従い「警察に相談している」と伝えた。男は「警察?」とうろたえ電話は切れた。それ以来、連絡はない。
田中は雲仙署の対応が親切だったと感謝し、「最初から警察に行けば良かった」と後悔している。
被害に遭ったことは警察以外には話していない。妻や年頃の娘には絶対に知られたくない。羞恥心や弱みに付け込むニセ電話詐欺。「パソコンをいじっていておかしいと感じたら、すぐに警察に相談した方がいい」と田中は言った。(敬称略)
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ニセ電話詐欺の被害が県内で止まらない。5月末時点の認知件数は49件。前年同月比で30件増加した。犯行グループは手口をコロコロと変え、心の隙を突いてくる。長崎新聞社は県警と連携し、月1回、県内の被害状況を掲載。併せて、詐欺の実態に迫る。
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